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REAL TECH FUND

【株式会社オリィ研究所】
存在感の伝達で新しい社会参加のカタチをつくる

2016.08.09
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世界の孤独を解消する

永田:分身ロボット「オリヒメ」を開発するベンチャー企業として、少し有名になってきたオリィ研究所ですが、まずは会社のビジョンとどんな課題を解決するものか、簡単に説明していただけますか。

吉藤:孤独の解消がビジョンです。病院に入院して家族との時間を過ごせない方や、ALS患者のように自分の意思で動くことのできない方、もしくは単身赴任で家族の待つ家に帰れない方など、世界には孤独を感じている人が数多く存在しています。私自身、幼少期は病弱で、小学5年~中学3年まで学校にも通えませんでした。病室にたった一人でいたときに実感したのは、人は物理的に一人であることで孤独を感じるのではなく、社会との関わりが絶たれることで孤独を感じるのだということです。つまり、物理的に一人でも、社会との関わりを感じることができれば、孤独の解消ができると思いました。そこで、オリヒメというロボットを開発することにしたのです。オリヒメには、マイクとカメラがついていて、首や腕を動かすことができます。例えば自宅にオリヒメを置いておくことで、入院患者はiPadやパソコンを使い、病院にいながら、自宅に帰ってきて家族とコミュニケーションをとることができるのです。

:最近、入力デバイスも開発したよね。

吉藤:はい、ALSの患者さんが、よりコミュニケーションをとりやすくなるように、デジタル透明文字盤を開発しました。元々ALSの患者さんは、透明文字盤というコミュニケーションツールを使っていました。A3サイズぐらいの透明なボードに、50音順に文字が並んでいて、患者さんと自分の間に文字盤を構えて、患者さんが見ている文字を読み取って会話をするというものです。ただ従来のものだと使うのに慣れが必要だったり、患者さんの意図を読み取る人が必要だったりと、使いやすいとは言えないものでした。そこで、透明文字盤の概念をソフトウェアとして開発したのがデジタル透明文字盤です。トビーなどの視線入力デバイスと組み合わせて、視線入力だけで文字を入力できるようになりました。患者さんたちがこれまで慣れていた透明文字盤と同じ感覚で使用できるため、すぐに使いこなせることもポイントです。

:オリィ研究所ってコミュニケーションロボットの会社として注目されがちだけど、実際は違うよね?

吉藤:私たちは「孤独の解消」を実現したいのであって、ロボットを作りたいわけではありません。だからこそ、ユーザーとなる方と徹底的にコミュニケーションをとって、必要な要素を追加していく開発体制をとっています。昔のオリヒメは、足もついていて自分で歩けるようなものにしていましたが、実際の使用状況で試した結果、現在のカタチに落ち着きました。一度腕を取ったこともあったのですが、会話以外のコミュニケーションをするためには、腕は必須だという話になり元に戻しました。そういったプロセスの中でデジタル透明文字盤も開発したのです。あくまでもユーザーにとっての価値を最優先に考えたいと思っていますので、もしかしたら10年後、オリヒメはロボットでなくなっているかもしれない。そのほうが孤独の解消につながるのであれば、それを選ぶと思います。

 


情報ではなく「存在感」を伝達する

ory5永田:実際のビジネスを考えた場合、相手の顔が映るスカイプや、他のコミュニケーションロボットとの違いを明確化する必要があると思いますが、その点についてはどう考えてらっしゃいますか?

結城:キーワードは「存在感」です。オリィ研究所では、存在感を伝えることで孤独を解消してきました。例えばALS患者の方にご自宅でオリヒメを使っていただいたことがありました。その際、その方の娘さんはオリヒメを使った感想に「お父さんと一緒にテレビを観た」と書いていました。その子の中では、オリヒメが家にいたのではなく、オリヒメを通じてお父さんの存在を感じていたのです。スカイプで伝えるのは情報ですが、オリヒメが伝えているのは存在感なのです。


:実際、リバネスとオリィ研究所で連携して、高校生向けの実験教室の中で試してみたら、情報がよりきちんと伝わるのはスカイプや電話でした。一方、オリヒメは感覚が伝わります。そこに居るという存在を実感できます。

永田:存在とは何ですか。

吉藤:認識ですね。それはそれを見る人間がどう感じるかがすべてだと思います。対象がiPhoneやモニターではなくて、人型の物であれば感情移入します。感情移入と憑依が一体化してまるでここに人がいるような感覚になってきます。この感覚をうまく使えれば、今までできなかった同じ時間を作れると思っています。人は悲しい話を聞いても涙を流しませんが、アニメで悲しい話を見ると涙を流します。それと同じで、そこにその人が存在していると言う感覚をいかに適切に伝達するのかが我々のテーマです。そこの研究をしていきたいと思います。

:だからテクノロジーの会社ではなくて、サイエンスの会社なんだよね。サイエンスの部分の解明をしていくと、もっと強い会社になると思います。

 


オリヒメが生み出す価値の本質

結城:今までは孤独を狭い意味でとらえていました。例えば、入院している方、障がい者の方などです。でも単身赴任の人や役割が無いと感じている人も寂しさを感じていると思います。オリヒメを通して、例えばお父さんの役割を与えれば存在感を伝えることができ孤独の解消につながると思います。コンセプトは変わりませんが、使用対象者は広がると思います。

吉藤:例えば、単身赴任などで家族の待つ家に帰れないお父さんに、我が家の中で居場所を作るとこはできるか。存在感を作ることはできるか。私は、このオリヒメを使って存在感を伝達する事が出来るという手ごたえを感じています。お父さんがオリヒメを通じて、家族との時間を過ごしたとして、お父さんと家族、それぞれの記憶に残る。するとそれは、「そこに存在した」という事になるんじゃないかと。

結城:そういう研究は、今までは社内の私達だけで構築してきたものですが、今回ご出資頂いた後の展開としては、我々の外の研究機関、例えば大学の研究などで今までとは違う新たな知見を入れる事で存在感と言うテーマやコアバリューをもっと深めていきたいと思います。

吉藤:研究者と組むことによって対人恐怖症を克服できるかもしれません。そういう産学連携もしていきたいです。

永田:そういう意味で私はオリヒメには2種類のユーザー候補がいると思っています。1つ目は、今まで話してきたようなオリヒメの操作者。物理的に離れた場所にいる人です。そしてもう1つは、オリヒメが置かれた周囲にいる人ですね。オリヒメの用途を考えた場合、入院患者や単身赴任のお父さん、などオリヒメの操作者にフォーカスされがちです。でも私はそれ以上に、置かれた周囲の人たちに価値をもたらすのではと思っているのですが、そういった観点ではどうでしょうか。

ory2吉藤:例えば、永田社長のオリヒメがここに置かれているとすると、ここに社長が参加して嬉しいなど個々の認識があると思います。社長からするとチームに参加しているという認識がある。チームとしては、社長の存在があることで意見がバラバラになることを防いでいる。

永田:オリヒメのようにリアクションがあると、ここにいるような存在を感じる。ここに社長がいると思えば緊張を感じる。たとえ一言も話さなくても存在を感じることができる。そうするとその場において起こるべきことの価値が上がる。それがこちら側の効用だということですね。それによってオリヒメの向こう側にいる人は、自分がそこにいる感覚を、向こうにいる人も感じていることを意識することで、発言も変わるかもしれない。こうなると実質的には向こうにいる人がここにいる事になる。これを全員で共有できる。こうなると、入院している人だけでなく、誰もが日常で使う事が出来ると思う。

結城:そういったユースケースは、ビジネスの場で既にトライアルとして使って頂いています。今までは、スカイプで会議をしていたところから、オリヒメを置くことによって、積極的に発言をしたり、周りにいるメンバーがオリヒメで参加している人に質問を投げたりするインタラクションが増加し、結果としてそのチームのディスカッションの質が上がったと聞いています。

永田:私は、オリィ研究所には、より「オリヒメが置かれた周囲の人」の視点にたって、オリヒメの性能を向上させる研究開発に期待しています。声のする方に首を向ける自然な動きだったり、話を集中して聞いている感覚がオリヒメを通じて理解できたりとか。そうやって周囲の人に、私がそこにいる感覚をよりリアルに共有できれば、私はオフィスに来る必要はなくなるはず。オリヒメを自分の席に置けばいいから。

ory6吉藤:スマートフォンのカメラで使用者の顔を認識させて、顔を動かすとオリヒメの顔を動かすとか。これはできます。将来的には触覚のフィードバックとかもできるとよりリアルに近づきますね。

:そこまで性能を上げればオリヒメ同士で打ち合わせができるよね。

永田:利用者の動作を自然に再現できるようになれば、憑依という言葉に極めて近づくはず。この憑依感が増してゆけばビジネスはいくらでも広がると思います。もし、それが現実のものになったとしたら、オリヒメ同士が集まるとお互いに存在を感じられるのか、だったり、「存在感」を突き詰めていくことで今までにない価値を世界に作っていけると思う。

結城:ようやく7月に安定して動くオリヒメができますから、今後そういった機能を搭載して行きたいです。

 


オリィ研究所の創業秘話

永田:なぜ会社を作ろうと思ったのですか?

ory3吉藤:大学で研究室を選ぶときに、患者さん(ユーザーさん)とやり取りしながら、作った物を使ってもらって、ダメ出しが戻ってきて、また作る、ということをしたかったのです。研究室を見て周りましたが、論文を書くなど、研究のための研究と言う感じがして、自分のやりたい事とは違うと感じてしました。それなら自分で作ろうと思いオリィ研究所を作りました。そこで、オリヒメをやりたいとプレゼンを始めたのが2009年。でも当時は、誰も理解してくれませんでした。最先端技術はどこにあるのだ、何が研究なのだ、とか言われて。理解されなかったのでオリヒメの開発を誰にも言わず一人で黙々とやっていました。

永田:変化のタイミングはいつ、どんなところにあったんですか?


結城:2010年7月に、実際のモノができて、同年12月にあった早稲田の物づくりコンテストで優勝したころですね。アカデミックな人たちだけでなくて、本当に困っている人や入院している人にすぐ繋がっているような大勢の人に見てもらえたのが一つの起点だったと思います。

吉藤:物を作っても、じゃあ、入院している人がいるかというといないのですよ。入院している知り合いがいない。そこは相当苦労しました。

吉藤:次の転機は丸さんとの出会いですね。早稲田大学のビジコンに優勝したのでその時にオリィ研究室と言うのが早稲田大学のインキュベーションセンターの中に公式に看板が付くようになり、早稲田大学の代表ロボットと言うことで2011年の国際ロボット展に出してもらったりしていました。他にもいろいろなビジコンに出て開発費を集めていました。そんななかで知り合った先輩起業家の方から、丸さんという面白い社長がいると聞いてお会いしたのが5年前。それが丸さんとのおつきあいのきっかけでしたね。さっそく会いに行こうと思ったら、丸さんが入院してしまったというので病院まで行きました。

:吉藤さんの第一印象は、「変わったやつだなぁ」と。約束の日にアキレス腱を切って入院していたのですが、丁度良いとか言って病院に来ました。なんか黒い変なマントを着ているし、紹介してくれたIT系の経営者が手に負えないって言って相談されたんです。最先端ではないけどロボティクスを組み合わせた技術らしいと。

吉藤:丸さんのところには犬型のロボットを持って行きました。当時、オリヒメは人型ですらなくて、この犬を連れて行くとそこに丸さんの存在をつくる事ができるのですよと説明しました。

:何を言っているのか意味が分からなかった。アバターですとか、憑依できるとか。そしたらとにかく使ってくれと。たまたま入院していたので、ケーススタディーとして使ってみたんです。そうしたら、初めて何を言いたかったのかがわかりました。でも、仲間がいないなら会社はやめなさいと話したら、仲間の結城さんがイギリスにいると。同じように体が弱くて寝込みがちだと。それで何だかスカイプでやり取りしているわけですよ。

吉藤:いやいやスカイプじゃなくて、オリヒメでしたよ。

ory1:わかったこれで二人いると。もう一人いないと俺は嫌だよと。三人いないと喧嘩になったときバッファーが必要だから。そうして探し当てたのがCTOの椎葉くん。

吉藤:陸前高田にボランティアで行った時、ボランティア繋がりで知り合ったのが椎葉さんでした。椎葉さんが参加してくれるまでは人が来ては去りを繰り返していました。

:合わないもん、この二人に。何を言っているのか分からないし、よく喧嘩しているし。そうやって椎葉くんが入るまでの様子を見ていて、ああ、この人はやりきるなと。これなら支援してもいいかなと思った。それで、一緒に支援してくれる顧問の人を見つけてきて、会社の運営の仕組みを、会議の仕方から経理会計の仕組みから、補助金の取り方まで毎週会議をしながら教えてあげた。あと、リバネスが色々な事をするたびに一緒に連れて行った。シンガポール、インドネシアにも行った。ビジネスに関しては知らなかったけど素直に学ぶ姿勢があったし、事業内容については元々ブレない理念を持っていて、そこにつながりそうなネットワークはどんどん自分で広げていっていた。自分でやる力があったのでここまで来たと思う。でも、ここまではビジコンや国の補助金で食いつないできたけど、これからはオリヒメを本当の事業として勝負をするという大変な時期になると思うよ。ここからが本番。

結城:オリヒメを作って使ってもらって喜んでくださる人たちと繋がることができた。次はビジネスとして、どうやったら喜んで下さる人たちを増やせて、それをずっと提供し続けられるかを考えなくてはいけないですね。

永田:僕たちが日本とハワイにいても、同じ空間にいるような存在感を感じながら仕事が出来るようになるのはいつですか。

吉藤:2018年ですね。

結城:それなら日付は7月7日にしましょう。七夕ですから。

永田:2018年7月7日までに、使い手もコチラ側の人も本当に人が憑依しているように感じられる物を作る。そこから先の発想やビジネスは、そのオリヒメを配ったときに皆が持ち込める話だと思っています。これからのご活躍を楽しみにしています。