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REAL TECH FUND

【iHeart Japan株式会社】
iPS細胞の研究で心臓病患者を救う

2016.11.24
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将来は細胞医薬が当たり前の治療法になる

永田:まずはiHeart Japanについて簡単に説明して下さい。

角田:iPS細胞で心臓の再生医療をおこないます。最終的には心臓移植を代替することを目指している会社です。

:最初に話を聞いた時は、心臓に貼る高度な絆創膏を作っているイメージでした。

角田:絆創膏と言うより、心臓の壁だけを部分的に移植するイメージです。

永田:傷んでいるところだけを新しい物に入れ替える。そして同じ機能を発揮して合併症が無いのですね。

:なるほど絆創膏だと上から貼ってとりあえず手当てしたみたいになるから、絆創膏ではないんだ。

角田:絆創膏はそれ自体が組織にならないし、いつか剥がします。私たちの技術はそうではないのです。移植した細胞が心臓の壁と一体化してゆきます。だから心臓の壁の部分移植と言う感じです。

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永田:細胞移植で問題になるのが、その細胞が自分の細胞なのか他人の細胞なのかというところですが、御社はどのようされていますか。

角田:今は他人の細胞を利用しようとしています。おそらく、自分の細胞から目的の細胞を作って自分自身に移植するような治療方法を目指して、iPS細胞は発明されたのだろうと思いますが、現在は一人ひとりの患者さん自身の細胞からオーダーメイドで製造すると多大なコストがかかりますので一人の健康な人から頂いた細胞を多くの患者さんに移植する他家移植をやっています。将来は自分の細胞で造ったiPS細胞から自分の組織を作って自分に移植できるようになると思います。これはコストの問題ですから。

 

:それは何年後でしょうか。

角田:30年後くらいでしょうか。技術的にはもう出来るところまで来ているのですが、十分に安全だと社会に認めてもらうには使用経験をたくさん積まないといけませんから。

:技術的には出来るのに、30年かかるって・・・。

角田:規制産業の特徴とも言えますね。例えば、遺伝子組み換え技術を用いたタンパク質医薬は、最初にジェネンテックという会社が実用化しましたが、高分子であるタンパク質が医薬品になるとは当時はだれも思っていませんでした。低分子化合物でないと医薬品に要求される厳しい品質と安全性の基準を満たせないと思われていたからです。タンパク質を医薬品にするという試みがスタートしてから、それが普及して「当たり前の治療」になるまでにだいたい30年かかっています。

:だから今回も30年かかるだろうと。

角田:そうです。今、細胞医薬という分野が出来上がりつつあります。細胞で人の体を治療するのがだんだん珍しくなくなってきています。

:脂肪幹細胞を取って入れると若返るとかね。

角田:そうですね。美容整形の分野で使われています。しわ取り、豊胸などでやっていますね。

:美容整形だし胡散臭いとか言われていますが、結果はある程度出ている。

角田:細胞医薬が当たり前になるのに30年くらいかかるとして、すでに脂肪幹細胞がスタートした時から10年くらい経過しています。それら比較的単純な細胞医薬はあと20年も経てばだいぶ「当たり前の治療」になるだろうと思います。iPS細胞はもう少しだけ遅れて「当たり前の治療」になるはずです。


iPS細胞の課題と可能性

iheart_02永田:なるほど。自家細胞での移植に30年かかるし、コストのこともあるので今は他家細胞でやりますという事ですね。でも一般的には、他人の細胞を自分に入れると言うのは難しいように思いますが。
:拒否反応が出ますよね。

角田:普通は免疫拒絶が起きますから、それをどうやって回避するかが問題になります。そもそも免疫が活発に働いていない場所、眼球内とかひざ関節とか、そういう個所に施すのは一つの方法ですよね。我々は心臓を扱っていますが、心臓は免疫拒絶が起こります。だから免疫の型を合わせたり免疫抑制剤を使ったりしなくてはいけない。免疫の型とは実は血液型なのです。赤血球の血液型と同じように白血球にも血液型があります。その白血球の血液型が合うか合わないかが免疫拒絶の有無を決めるという事です。白血球の血液型を定めている遺伝子の位置が六つあるのですが、その六つのうち主要な三つが合えばだいたい移植できるということが分かっています。その三つが他人と合いやすい特殊な人の細胞をいくつか揃えれば他人の細胞であっても免疫拒絶を心配せずに移植できるだろうと考えています。

永田:今のおはなしを聞くと自家細胞の方が簡単で早いんじゃないかと思うのですが。

角田:iPS細胞の培養に関わる品質チェックには費用と時間がかかります。今だと、ざっくり言って5千万円と1年かかります。それを一人ひとりの患者さんの細胞に対して行うのは大変です。他人の細胞を使うとiPS細胞の品質チェックを1回やって多くの患者さんに移植できるので、患者さん一人当たりの治療にかかる費用と時間が減ります。このiPS細胞の品質チェックの経済的/時間的コストが大幅に下がる時がiPS細胞の自家移植が一般に普及する時だと思います。

永田:目やひざ関節と比較して心臓は難しいと思うのですが、色々な臓器がある中でなぜ心臓をやろうと思ったのでしょうか。

角田:アンメット・メディカル・ニーズの強さですね。満たされていないニーズ、つまりソリューションが無い疾患であり、さらに、命にかかわる疾患であるということです。究極的に言うと膝が悪くなっても命にかかわらないですが、心臓は命にかかわります。腎臓や肝臓など他にも重要な臓器はあるのですが、心臓は挑戦する価値が特に大きい臓器だと思います。

永田:それは、患者側のニーズが強くてソリューションが無いからですか。技術的なハードルの高さと言うよりは、ニーズの強さでしょうか。

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角田:いくらニーズがあっても技術的に無理なことは現実的ではありません。
心臓はそのあたりのバランスが良いと思います。例えば立体的に複雑な構造を持っている物、デリケートな機能を持っている物を再現するのはとても難しいです。その点、心臓は血液を送り出す筋力さえ発揮すればいいのです。構成している細胞の種類が少なく、体積で見ればほとんど心筋細胞で出来ています。もちろん、血管が入っていますが、細胞の種類は多くありません。
他の臓器は、もっと様々な細胞が協力して、細胞のコラボレーションによって機能を発揮しているものが多く、これを再現するのは難しいです。再生医療の先駆けとなった膝軟骨は、軟骨細胞だけなので簡単に作れますが、人工関節がありますから・・。

 

永田:既にソリューションがあるのですね。

角田:そうです。そういう意味で言うと、心臓は、アンメット・メディカル・ニーズと実現性のバランスが良いと思います。


山下先生との出会い

永田:iPS細胞は京都大学が有名ですが、あちこちでiPS細胞の研究がされていて、臓器ごとに分かれているのか、先生ごとにわかれているのか、一般の人には良く分からないと思うのですが、なぜ京都大学の山下潤先生とお仕事をされる事になったのですか。

角田:これは運命の巡りあわせだと思います。例えば私が、iPS細胞を生んだ京都大学の山中伸弥先生と組んで会社を起こそうと思っても無理です。

永田:山中先生が人気者だからですか。
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角田:山中先生と仕事をしたい大手企業は沢山ありますから私なんてそもそも会ってすらもらえません。山下先生は、私が出会った当時、幹細胞から心臓の細胞への分化誘導においては既に第一人者でしたが、大手企業と組んではおらず、ベンチャー企業を立ち上げようとして経営人材を探していました。一方で、私は、ベンチャーキャピタルの仕事を8年やったので、そろそろ違う仕事に就こうかと思っていた頃でした。それぞれがそういう時期だった時に出会ったのは、運命に引き合わされた感じがします。そして、会って話を聞いてみて、山下先生の技術のポテンシャルに将来性を感じ、心不全治療に取り組む山下先生の研究姿勢に共感しました。でも、一番重要だったのは相性が良かったことだと思います。ウマが合うとか、気が合うとか、そういうことです。

永田:角田さんと丸さんは、最初はどこで会ったのですか。

角田:山下先生と私が引き合わされた後、会社を登記して資金集めをしていて、人から人へと色々な人を紹介してもらっている時に、ある人が丸さんを紹介してくれました。

:丸に会えと(笑)

角田:そうそう。あの男が良いと言うのならきっと良い技術だろうから、あの男に説明してみろと。

:角田さんに初めて会った時、上から構えた感じがあったけど、テクノロジーを愛していて、山下先生の話をすごく嬉しそうに話していた。凄い技術なんだよって。そんなに言うなら一度山下先生にあわせてよと言う事で会いに行ったの。そしたら山下先生はすごくパッションがあって、これは応援したいと思ったのでリバネスのバイオ担当の坂本を送り込みました。

角田:その坂本さんと私と二人だけで補助金獲得に応募しました。そしてNEDOから補助金を頂き、その補助金で初期の研究基盤を調えました。
創業間もない時期で、ヒトもカネも無かった段階でしたし、あれが契機になっていろいろうまく展開しましたから、坂本さんを送り込んでくれたことは、当社にとってとても重要な支援でした。


キャピタリストから経営者へ

永田:角田さんは素晴らしい経歴をお持ちですが、何故ベンチャーの経営者になろうと思ったのですか。

角田:最初にベンチャー企業に興味を持ったのは幼稚な理由で、単純に経営者になりたいと思ったのがきっかけです。ベンチャーキャピタル(VC)の世界に行けば、経営のノウハウが分かるし、人脈もつくれるだろうし、起業するチャンスもあるだろうと思いました。ところが、やってみたらVCの仕事が面白かったので、結果として当初の想定以上に長く続けることになりました。でも、VCで働いていると、VCで本当に一流の人は、自分で事業をやって成功した後、後輩を育成するためにVCという仕組みを使っているだけだと分かりました。
VCは、金融業としてみた場合は効率が悪いビジネスです。普通に上場している会社の株で投資信託を運用してる方がリスクも低いし・・。

永田:上場企業の運用のほうが楽ですよね。

iheart_05 角田:私はベンチャーキャピタルの投資業務では一人前にはなれたかもしれないけどまだまだ一流じゃないと思い始めました。このままでいいのだろうかと。そういうときに山下先生に出会って、このチャンスをどうすべきかと考えました。このままの延長で生きてゆく、つまりベンチャーキャピタリストとして続ける人生も、製薬企業に転職するような人生もあるわけです。それらの道と、山下先生と一緒にやる道とはどちらが良いのか、どちらが面白いのかと。それらを比べれば、このベンチャー企業の道の方が生きている感じがするじゃないですか。

:会社が死んじゃうかもしれないけどね(笑)

 

 

角田:でも、人間ね、死にかけた時の方が生きているって実感するでしょう。死にかけると命の有難味を感じるんですよ。それと同じで、自分自身が生き生きと輝いて生きられる路線はきっとコチラだと思いました。

:そんな時に僕たち、リバネスに会えてよかったね(笑)


リアルテックファンドの夢:エコシステムの創造

:僕も最初はVCに興味なかったんだけど、角田さんのようにVC出身でこういう事をやっている人に巡り合ったし、永田さんや室賀さんがそれまでのグリーディーな金融関係者のイメージを変えてくれました。そうじゃない人もいるんだって。リアルテックファンドを造ってから楽しいのは、今まで培ってきた物を全部リアルテックに渡せる。だってみんな仲間だから。みんなで考えてみんなでやる。

永田:僕がユーグレナ社を辞めずにリアルテックファンドをやっているのは、二つ理由があって、一つはエコシステムを造りたい。リアルテックベンチャー企業が成功してキチンとした後、皆で少しずつ関わって次世代を造る皿になると言うのを目指しています。そうなると面白いことが起きると思います。
もう一つは、自分が現役でい続けることがキャピタリストとしての価値なんだと思っていて、例えば角田さんがこの事業がうまく行ってお金と経験を得て、そういう人達が集まると面白いと思います。
テクノロジー領域で大成功しているベンチャー企業ってまだあまりないのですが、例えば成功して大企業になると自前主義になることが多いです。でもオープンイノベーションの感覚を持ちながらエコシステムを造ろうとしている人たちが今の世代には沢山出ているので、そういう人達が成功体験を持ってエコシステムを造ってゆく一つの皿になると良いなと思いながらこの活動をしています。だからグリーディーさとか、ファイナンスから最も遠いリバネスと一緒に仕事ができるのだと思います。

:それはまさにリバネスがやりたかったことです。だけどピースが足りなくて実行できていなかったことですね。もしかすると10年後に、リアルテックファンドが投資した企業は理念共有しているから、成功した後でリアルテックの名刺を持って次の世代を育成する活動してくれるんじゃないかと思っています。10年後、20年後が楽しみです。僕は歳を取ってから楽しいと思います。100歳くらいまで生きますから。

永田:角田さん達のおかげで。

:そう、僕の心臓、いつでも取り替えられますからね(笑)

 


事業の成功:関わったすべての人に報いること

永田: iHeart Japanにとって、次に何が起こると成功だと思っていますか。

iheart_06角田:私が従業員達に言っているのは、単に上場するのが成功ではない、製品をリリースするのが成功じゃない、もちろんそれは成功の構成要素の一つではありますが、それだけではなく、我々がバイオベンチャーの成功事例として世間から認識されて、その成功に貢献したすべての人、つまり、発明者もベンチャーキャピタルも従業員も取引先も当社に関わるすべての人たちが貢献度合いに応じてきちんと報いられるようにしたいです。
我々はこれから治験をします。治験と言うと響きが良いですが、言ってしまえば人体実験です。その人体実験に自分の体を差し出して下さる、ましてや心臓なんて命にかかわる事です。これに関わってくださる患者さんがいらっしゃいます。その患者さんにも報いなくてはいけないので、いい加減な製品で治験をやって亡くなってしまうような事をしてはいけないのです。我が社に関わるありとあらゆる人が、「ああiHeart Japanがいてくれて良かった、あの会社のおかげでこの世界はこれだけ良くなった。」と思ってもらえる、そういう風にしたいです。

永田:360度、皆さんが幸せになることが目標ですね。それってあまり遠くない気がします。

角田:まだまだ障害物があります。

永田:きちんと上市されて、物が届けられて、それで健康になる人がでて、会社も発展して、働いている人も投資した人もみんな幸せになる。僕らはそれが10年以内に実現すると思って投資して支援させて頂いています。
投資する前にお話ししたと思いますが、僕たちはIPOが成功だと思っていなくて、社会実装が何件できるかをKPIにしています。これは特に記載はしてないですが、まだ成功する前にIPOしたとしても僕らは売らないつもりです。僕たちは、製品が届いて人が健康になりだしたのを見届けてから初めてしょうがなくファンド期限で売ると言う気持ちでやっています。その気持ちをキチンとシェアできると嬉しいです。ベンチャーキャピタルと言う機能の絵姿を示してやりたいって思っています。


目指す未来:あらゆる臓器の再生

永田:心筋再生を実現した後はどんな未来を描いていますか。

角田:だいぶ先になると思いますが、心臓以外の臓器、肝臓、腎臓、膵臓に進出して体のパーツをいくらでも再生できるようにしたいですね。

永田:iPS関係で上場している会社もありますし、研究者も沢山いますが、その中でiHeart Japanの強みは何でしょうか。

角田:体の臓器の殆どには血管がはしっています。弊社のファウンダーの山下先生を心臓の専門家のように紹介しましたが、専門分野では心血管系と言って心臓と血管なんですよ。我々は、血管の細胞を作り出す技術を持っています。人体においては血管が走っていない部分の方が少ないです。殆どの臓器は血管があります。だから他の臓器をやろうと思ったらいずれ必要になる技術を我々は今持っています。だから比較的他の臓器に進出しやすい立場にいます。

:そこのコアの部分が強いのですよね。あと、あの特許をきれいに取れましたね。心臓細胞の多層体の特許。

永田:僕は、研究者の方に怖がられちゃう事があるのですが、同じキャピタリストとして角田さんにシンパシーを感じています。患者さんの望む成功にたどり着いて頂いて、次世代のリアルテックベンチャーを一緒に出来るように期待しています。これからも宜しくお願い致します。