REAL TECH FUND

【株式会社AquaFusion】日本の水産業を変えるテクノロジーがここにある AquaFusion創業者の笹倉氏が語る水産への想いと今後の展望【前編】

2020.02.14
TwitterFacebookHatena

AquaFusionの開発する魚群探知機(以下AquaMagic)は従来の魚群探知機の100倍のデータ回収率を誇る。現在の漁業の常識を覆すポテンシャルを持つAquaMagicだが、その発明に至るまでのストーリー、日本の水産業に対する想いや、次世代への橋渡しとなる若手の採用などについて、Real Tech Fundの藤井がAqua Fusionの創業者である笹倉さんと松尾さんに詳しくお話を伺った。


『AquaFusionの設立に至るまで』

藤井:ーAquaFusionの設立にいたるまでのストーリーをお聞かせいだければなと思います。どういった思いでAquaFusionの設立に至ったのでしょうか。

笹倉:今から5年ぐらい前に、バイオソナーの研究をされていた松尾先生からとあるお話を頂いたのが最初のきっかけでした。

もともと僕はFusionという個人会社をやっていて、超音波発信機を魚につけて、コードによる識別で魚の生態を研究をする製品を出していました。それを松尾先生もご存知だったので、「今の開発しているコードを魚群探知機に応用してはどうだろうか」というお話をいただいたんですね。話としては面白かったけど、実際にできるかどうかもわからないし、まずは二人でこっそりやろうということになりまして、沖縄に行ってひたすら実験機を作って実験をしていました。

その後、特許も出してデータも揃いつつあったので、2016年に日本の海洋音響学会と、アメリカの音響学会で学会発表をしました。それが予想以上に反響がありすぎてしまったため、「やばいね」ということになってそれからは一切発表しませんでした。その後会う人会う人に「例の研究はその後どうなりましたか?」と聞かれたけど、「いやどうもしてないよ」と言ってひたすら隠していましたね。

そして、去年の2月のICC福岡2018でこの魚群探知機の研究を発表してほしいとリアルテックファンドさんに言われたんですが、海のことがわかる人が誰もいない中で発表しても仕方ないだろうと思って最初は断ったんです。でも、どうしても!と言われて発表したら賞を頂いてしまって。(笑)発表した時に会場が「おお!」と沸いたんですね。会場には200300人いたんですけど、海のことがわかる関係者がだれ一人いないのにも関わらず沸いたんです。その時に「え!魚群探知機のことわかるんだ!」と思いまして。素人が見てこの魚群探知機の凄さがわかるんだったらこれは商売にしようと相当自信がつきました。その前の年ぐらいには既に僕と松尾先生だけの会社を設立していたので、特許は日本とアメリカで3本程出していました。本格的に事業化する運びになったのは2018年でした。


『「水産、漁業に恩返ししたい」という想い』

藤井:―そもそもなぜ水産でビジネスをしようと思われたのですか?

笹倉:以前勤めていた古野電気にはもともと海の仕事がやりたくて入りました。ずっと水産をやっていたわけでもなくて電気をやっていた時期もあったのですが、僕の中には「水産、漁業に恩返ししたい。平たくいえば、社会貢献したい」というような想いがずっとありました。

学術的な観点から言えば、この魚群探知機の研究はすごくユニークで面白いし、これで博士(ドクター)を何人も輩出できるぐらいの価値がある研究なんです。最終的には松尾さんにノーベル賞を取ってもらいたいと僕は思っているんですけどね(笑)。ノーベル賞の中に海洋物理学賞という区分はないんですけれど、一応物理学賞の類ではありますから。本当にノーベル賞を取ることになれば世界に対して物凄い貢献力があったという証左になりますので、学術的にもそれぐらいの価値があると思って僕は開発をやっています。

藤井:―水産業に対してなぜそんなに熱い思いを抱いてらっしゃるのですか?

笹倉:それは20年近く日本の水産でお世話になったからでしょうね。実際に漁師さんたちと一緒に漁をするんですが、そうすると彼らと一緒に生活することになる。古野電気のような会社の場合は、既存のエレクトロニクスの会社の場合のような作り手、売り手、買い手という感じじゃなくて、彼らと一体の関係なんですよね。漁師さんと船に乗って一緒に魚網を引いて、機械を作ってまた漁師さんのところに持っていくというようなね。そこで生活していたという感覚がありますし、自分の家のような感じなんです。だから、自分の家みたいなところが豊かではなくなっているというのはいただけないという気持ちにさせられます。なので「生活の場として豊かな水産業を」という思いがありますよね。

 


『我々のミッションは、テクノロジーを通じて水産を再生させること』

藤井:ーAquaFusionという会社を一言で説明するとしたらどのように説明しますか?

笹倉:今流に言うなら、「テクノロジーを通じて水産を再生するベンチャー」です。水産に対してもう「再生」という言葉を使ってしまっていいと思うんです。日本の漁師の皆さんは日本の水産は衰退していると思っていますので、あえて「再生」という言葉を水産や漁業に対して使わさせて頂きます。なのでもっと直球に言うなら、僕たちは「AquaMagicで水産業を変える」のが目標です。AquaMagicが何かというお話は後でさせていただきますが。

藤井:―水産業を再生するということは、ゆくゆくはAquaMagic以外の製品も作る可能性があるということでしょうか?

笹倉:そうですね。僕自身は物を作る昔の人間なので、仕組み自体を作り替えることで水産を変えることは僕にはできない。僕は水産業を変えるためのツールを生み出す側の人間ですから、これからもAquaMagic以外の製品を作る可能性はもちろんあります。

藤井:―再生した先にある水産業界としてはどんな世界を思い描いていますか?

笹倉:単純に言えば、一つは金銭的に豊かになるということだと思います。最近よく使われている言葉で言うなら「綺麗な海より豊かな海を」ということでしょうかね。これは少し皮肉が効いていて、海を浄化しすぎたために瀬戸内海などでは魚がかなり取れなくなっているんです。だから豊かな海と豊かな水産業を目指したい。その豊かさはお金だと解釈してもいいし、海と一緒に豊かに生活しようというマインド的なことでもあります。というのも、今全然豊かではないからなんですね。お金も心も。

藤井:―それは日本の水産業ということですか?それとも世界的に?

笹倉:日本の水産業ですね、まずは日本から。

藤井:―例えばアメリカのプレジャーボートだったり、実は海外の方がマーケットが大きいという話もあると思うんですけれど、海外で事業展開するという流れになった時には海外進出する意味や海外を見る意味をどこに見出しますか?

笹倉:この間ニューヨークに久しぶりに行ったときに、日本は100年遅れていると感じました。ぼーっとしてたらチコちゃんに怒られるぞ、じゃないですけど(笑)日本全体が今ぼーっとしてるのは間違いないですよね。もともとアメリカでビジネスがしたいという気持ちはありましたが、日本全体を再生させるためには絶対アメリカでビジネスをやらないといけないと思っています。ぼーっとしてても僕たちの世代はなんとかなるかもしれませんが、次の世代の人たちはそういうわけにはいかないだろうから。

松尾:あとは海洋ゴミ等の環境問題もありますよね。例えば、マイクロプラスチックが海洋生物に与える影響など、最近問題になっているかと思います。海洋全体でのマイクロプラスチックがどのように分布しているかもわかっていないのが現状です。AquaMagicはそのような問題に対応できる能力があると思います。

笹倉:そういう問題に対しても貢献したい気持ちはありますね。


『「音速の壁」を破る世界で唯一のテクノロジー』

藤井:―開発中のAquaMagicについてもお伺いしたいのですが、AquaMagicが何をするデバイスなのか、そしてその性能のすごさについてもご説明いただけますか?

笹倉:まずは音波について、基礎的なところからお話します。空気中の音波の伝わるスピードは340メートルで、水中は1500メートルです。それに対して空気中の光の伝わるスピードは30万キロ。水中の音波の伝わるスピードは1500メートルですから、光と音波では20万倍の差があります。これを魚群探知機に応用すると、超音波を送信し、反射してきたエコーから物体までの距離を知ることができるわけです。しかし、正確な距離測定のためには海底のエコーを受け取ってからしか次の超音波を出すことができないので、送信間隔を短くすることが原理的にできない音速の壁がありました。この「音速の壁」は破るとか破らないとかじゃなくて原理ですから、今まで全員越えられないと思っていたんです、松尾先生が言うまでは。僕が衝撃を受けたのは、この音速の壁を超えるテクノロジーがあるということに対してだったんです。そこから松尾先生と僕は1秒間に100回探査できる機械を作りました。まず原理を作って、試作品を作って、実際に魚も写せるようになりました。音速の壁を超えるテクノロジーを現実化させた一つの形として魚群探知機を作っています。それが「AquaMagic」です。

ではAquaMagicの何が画期的かというと、今までより100倍多くデータが出せるということでしょうね。すなわち、100倍のデータが回収できるということです。反対に100分の1の分解度のデータを出すことも論理的には可能です。つまり、画期的という表現を数字で表現しなおすなら、100倍のデータ量と100分の1の分解データが出せるということになります。今までは魚群を1単位としてそれを見つけていました。70年前に古野電気の創業者が魚群探知機を発明した当時はそれでも画期的だったんです。それまでの漁業とその停滞を変えてしまったのですから。なので、今度はAquaMagicで漁業を再生しようとしているということですね。誰かが潰してしまった漁業を自分達が変えるというような位置づけでしょうかね。

※従来の魚群探知機とAquaMagicで取得できるデータの比較画像

藤井:―その新しい原理をつくる難しさはどこにあったのでしょうか?それとも、原理自体は難しくなくて簡単ゆえに誰も気付いていなかったのでしょうか?

松尾:そうですね、原理自体は難しくなくて、その単純さゆえに40年間ぐらい研究していた方でも気付いていませんでした。それは誰にも超えられない常識だと思われていましたから。2007年ぐらいから水中のソナーの研究を始めていたんですが、4~5年経ってこれじゃ音速の壁を超えられないという壁にぶつかりまして。じゃあ何が必要のなのか、ということを考えていた時に、毎回出す音がそれぞれを区別できるような音ができればよい、つまり、音に色をつけるために音をコード化すればそこを超えられるのではないかと思いつきました。

藤井:―それを世界的に研究している研究者はいらっしゃるんですか?

松尾:コードを利用した超音波の研究をやっている方はいらっしゃるんですけど、それを連続して早くやるという考え方を採用した人は私以外にはだれもいないですね。そういった意味では世界で初めてです。

笹倉:専門家はそんなのはもうあるでしょ、という態度なんですが、ないんですよねこれが。

藤井:―その原理を超えるヒントを得られたのでしょうか?もともと他の分野をやっていたから発見できたなどのご説明はできますか?

松尾:実はいまの質問の中にヒントがあります。私はもともとこうもりのバイオソナーの研究をやっていました。最初はこうもりがどのように三次元空間を音で理解するのかということを研究していたのですが、2006年ぐらいに古野電気や水産工学研究所とイルカ型ソナーの共同研究をやり始めて、この分野に入りました。自分のバックグラウンドが皆さんと違うということもあって、どうしても違う立場からものを見ようとするんですよね。いろんなお話を聞いていく中でしばらく寝かしていたらコードと魚群探知機がマッチングしました。これは面白いことになるんじゃないかと思って軽く皆さんにそのお話をしたときはやっぱり誰も理解してくれなかったんです。じゃあもう理解してくれるのはこの人しかいないかなと思って、最後に笹倉さんにそのお話をしました。

藤井:―では、笹倉さんだけではなく他の方にもお話をしていたということでしょうか?

松尾:そうですね、あくまでも軽くですが。ナイーブなアイデアだったので、本当に軽くこんなことやってみたいよねという話をしたんですけど、誰も振り向いてくれなくて(笑)

藤井:―逆に笹倉さんはなぜそのお話に振り向いたのでしょうか?

笹倉:僕は当時そのアイデアの元になったものの開発をやっていたし、それの実用化もしていたのですぐわかったんです。本当に商用化できるかは疑問だったので少し待ってほしいとは思ったけれども。他の方たちからはあの時松尾先生の話に乗っておけばよかったという話も出ないんですよ。松尾先生がそういう話をされたということすら覚えていないもんですから。

僕は水の方の専門ですけど、音という点では松尾先生の領域と一致していたので、こうもりマイクと呼ばれるような製品の開発のお手伝いしていたんです。このマイクがさきほどのアイデアの元になっていて、何百種類の音波を同時に観測できるんですね。今までは周波数が一つあったらひとつの周波数しか拾えませんでした。昔の無線機は波数を相手側の無線機の波数と合わせて、一対一の交信しかできなかった。でも今は皆さんスマホで10人でも100人でも同時にしゃべれますよね。これがコードなんです。この原理自体は50年ぐらい前からありました。GPSやスマホで使っているのも同じコードなんです。そのコードを水の中に持ち込んだのは、私と松尾先生が世界で初めてということになりますね。

松尾:私が工学系の電気通信の出身なんですが、CDMAというコードの研究室もあって、学生時代にそういう話を聞いていたという背景もあるんですよね。当時はそんなことを意識してはいませんでしたが、それもあって笹倉さんのマイクの話を聞いたときにコードの話とマッチングしたのかもしれませんね。私の出身がもともと水産ではなくて工学部だったこともよかったのかもしれません。

藤井:―いろいろなイノベーションを起こすために必要なものは何かという議論をよくするんですけれど、やはり多様性を持っている組織のほうがイノベーションが生まれやすいというようなお話はよくあります。笹倉さんと松尾さんのお話はまさにそのケースに当てはまりますね。お話を聞いていて、異分野異業種の専門性をもった人が集まったからこそできた発明だったのかもしれないと感じました。

(後編はこちら


【求人情報】

AquaFusionは現在、事業を一緒に成長させるメンバーを募集しております!

組み込みソフトウェアエンジニア

仕事内容
当社の水中可視化装置のソフトウェア開発をお任せ致します。現段階では海底数百メートルまで、従来の技術よりも遥かに鮮明に魚群の探知ができます(魚の大きさや形までわかる)が、更にアルゴリズム開発を進め、”魚種の識別、プラスチックと魚の区別の実現を目指します。

将来的にはAIや機械学習を導入していき、魚や海洋資源の分布図を作成。海洋MAPや漁場予測機能により、効率的な漁業を実現し、水産資源を枯渇させない持続可能な新しい漁業形態に貢献していきます。そして、食糧問題や海洋環境問題など、海洋研究の発展を大きく支えていきます。

入社後は現担当の元、大きな裁量権を持ってAI開発や装置のGUI開発をお任せする予定です。ユーザーとの距離感が非常に近く、直にフィードバックをもらいながら製品開発に活かせる環境となっています。

必要条件
■C,C++を使用した開発経験
■当社事業に強く共感頂ける方

本ポジションに少しでも興味を持っていただきましたら、気軽に藤井昭剛ヴィルヘルム(Real Tech Fund Team Developer/akitaka.w.fujii@euglena.jp)までご一報ください。皆さまからのご連絡をお待ちしております。


【略歴】

■笹倉豊喜/CEO

1973年、古野電気(株)に入社。同社在任中、主にソナー・魚探など超音波機器の開発に従事。1984年には戦艦大和探索に参加し、発見に至る。その後、舶用機器事業部開発部長を歴任する。1999年にはフュージョン有限会社を設立し、水中音響機器開発に従事。2009年より東京海洋大学と共同研究開始し、2010年に東京海洋大学の客員研究員に就任。2012年3月に株式会社アクアサウンドを設立し、代表取締役会長に就任する。2012年には海洋音響学会論文賞を受賞。2017年1月、株式会社AquaFusion設立し、現在に至る。

■松尾行雄/取締役

2000年、東北大学電気通信研究所助手に就任、その後東北大学電気通信研究所COE研究員、産学連携研究員を歴任。東北大学在任時は、コウモリの生物ソナー、ならびに車載ソナーセンサに関する研究に従事。2005年より東北学院大学准教授に就任。その後2015年より教授。コウモリ・イルカの生物ソナーならびにその応用に関する研究や、絶滅危惧種のセミの音に関する研究や音声知覚に関する研究に従事。20171月、株式会社AquaFusion設立、現在に至る。盆地生まれのため、身近に川しかなく、昔から海に興味をもつ(泳ぎは苦手だが、、)。

TwitterFacebookHatena