REAL TECH FUND

テクノロジーで誰もが参加したくなる介護を
abaが目指す支えあいが巡る社会

2020.04.01
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人口減少、少子高齢化、財政赤字。昨今、日本社会を取り巻く大きな課題である。
そしてこれらの全ての課題に紐づいてくるのが介護業界だ。2050年には3,300万人もの生産年齢人口が減少するだけでなく、人口の40%が高齢者となる世の中がくると言われている。介護を必要とする人が増え、介護を行う人が減る。また財政支出の大部分を担っているのは社会保障費であり、個人、介護業界、国とますますその負担は大きくなるだろう。

そんな介護業界の課題をテクノロジーで解決するベンチャー企業がある。においで尿と便を検知し、ベッドに敷くだけでおむつ交換のタイミングを通知するプロダクト「Helppad」を開発する株式会社abaだ。

今回、代表を務める宇井吉美氏に同社が感じる介護業界の課題、そして目指す未来についてお話をお伺いする。

宇井 吉美(うい よしみ)
2011年、千葉工業大学未来ロボティクス学科在学中に株式会社abaを設立。
中学時代に祖母がうつ病を発症し、介護者となった経験を元に「介護者側の負担を減らしたい」という思いから、介護者を支えるためのロボット開発の道に進む。
特別養護老人ホームにて、介護職による排泄介助の壮絶な現場を見たことをきっかけとして、においセンサーで排泄を検知する「排泄ケアシステムHelppad(ヘルプパッド)」を製品化。
おむつを開けなくても排泄したことを知らせてくれることで、介護者の負担軽減を目指している。
千葉工業大学 博士
2019年 「ナイスステップ研究者」に選出


きっかけはおばあちゃん、
介護を行う私を助けて欲しかった


介護業界を志す人は自らの原体験が関係している人が多いという。宇井氏もそんな1人だ。しかし、その原体験から感じたことは少し違ったものになる。

宇井 私は中学生の時に同居していたおばあちゃんが病気になって、その時に介護する側もすごく大変だということを体験しました。もちろん病気になっている本人が一番辛いのですが、支える人も大変なんだなと。実はおばあちゃんが患っていたのはうつ病で、ご飯を食べさせるなどの身体介護はやっていなかったのですが、空間に病んでいる人がいるというだけで自分たちの気持ちも参ってしまうことが多くて。その経験から介護している人こそ色々な課題を抱えているんじゃないかなと思い、介護者を支援したいと志すようになりました。

通常であれば介護福祉士とか医者になって、介護者としてのレベルアップをしたいと思うかと思います。でも私はどちらかと言うと「私助けて」という気持ちの方が強いこともあり、介護者を支援する取り組みを始めたいと感じていました。


自らの原体験から介護者を支援したいと志した宇井氏。その一つのメソッドとしてテクノロジーを活用した支援を模索する。

宇井 介護の現場は、患者、介護者、そして介護者を助ける人がいるという構造です。ですが、この構造のままではどれだけ人がいても足りなくなってしまいますよね。だからこの構造を担う主体を人ではなくてテクノロジーに変えるのはどうかと中学生の頃から思っていました。

自分自身が理系出身だったということもあり、技術の可能性は色々な業界の事例や実体験から感じていました。テクノロジーには、「再現性」がありますよね。テクノロジーを使って標準化・最適化をすれば、ある程度のレベルのことは誰にでもできるようになる。これがまさに今の介護現場で必要なのではないかと考えるようになりました。


3.11を通して芽生えた「起業」への気持ち

大学入学直後よりプロダクト作りを行っていた宇井氏。介護者支援を模索する一方、起業の選択肢はなかったという。そんな時に起きたのが3.11東日本大震災。研究だけではなく、プロダクトを社会に送り出す責任が芽生えた。

宇井 介護者支援をやりたくて大学に入学したので、入学直後からプロジェクト活動という位置付けでabaを立ち上げました。当時は「起業する」というイメージは全くなく、女性のキャリアの最終ゴールとして社長になりたいなというのはあったのですが、abaで起業するとは思っていませんでしたね。一つソリューションを作りたいな、くらいの気持ちでした。

元々起業する気はなかったので、可能であれば大学の中で研究開発して、既存の企業と製品化し、それを土産に就活しようかなと考えていたのですが、そんな時に3.11の東日本大震災が起きました。社会混乱の中で、大学生の自分たちがやっているプロジェクトは誰にも見向きもされず、新規で企業との連携を検討していた話が一つ、また一つと頓挫していきました。周りが諦めて普通に就職した方がいい、とアドバイスをくれる中で改めて自分の想いを言語化してみると「やっぱり製品化して、本当に介護者を支援したい」という気持ちが素直に出てきました。また、介護者を支援したいという気持ちと同じくらい介護業界にテクノロジーを導入したい、生活のあらゆる場面に介護をインストールしたいという思いもあり、それをやらないと私の活動は終われないなと心から感じたからこそ、様々な人と相談して起業することにしました。


確立された施設経営の中で生じる
「より良い介護サービス」への課題

宇井氏は今の日本の介護支援のあり方を素晴らしいと思う反面、現状の仕組みではこれからくる時代へ対応できないと話す。彼女が捉える介護現場の課題とは一体どういうものなのか。

宇井 日本は介護保険の仕組みのおかげで、等しくいろんな人がサービスを受ける事ができています。これ自体は素晴らしい事なのですが、業界のビジネスモデルが決めてしまっているという裏返しでもあります。以前、介護施設経営者の方にはっきり言われたこととして、「僕たちは経営をしていない、運営をしている」という言葉がすごく印象に残っています。ビジネスモデル、もっと言えば「売上」が決まってしまっているので、新しい顧客体験や価値を生み出し、もっと選ばれる施設になろうという考えには中々なれません。介護施設は基本的に置かれているベッドを全て埋めきれれば売上が出ますし、そのベッドを埋めたなら、職員の人員配置基準が決まっているので、とりあえずそれを満たすために採用をします。極端に言えば、職員を採用できれば売上がたつモデルが確立されており、限界売上と採用基準を事前に定められているからこそ「運営すればいい」という状態なのです。

売り上げが決まっている以上、職員の給与上限も決まってしまい、どれだけ寄り添った素晴らしい介護を行っても給料が上げることは難しいです。介護の本質であるはずの「良いケア」をすれば評価が上がるのではなく、職員を採用しベッドを埋める事こそが至上命題というのが実情かと思います。

また、介護福祉先進国と呼ばれるオランダやデンマークは、社会保障費をしっかりと払い、潤沢な福祉サービスを提供するというモデルですが、高齢化が進み社会保障費が財政を圧迫しているので、なかなか質が担保できなくなって来ているという実態を抱えています。社会保障費だけでは全てを賄えず、ケアの質をあげたくても人手が足りないそうです。


高齢化社会が進む中、社会保障費以外での負担は必須になってくる。しかし、個人の財布には限度があるのも現実だ。これからの課題解決の鍵は新たなビジネスモデルの創出だと話す。

宇井 みんなから一定量の税金を集めて、社会保障費から介護への負担を分配するというやり方は、働く人が減って、支えられる人が増えている現状では難しくなっています。しかしながら、社会保障費だけでは賄えなくなるから家族などが負担しようというのも厳しいと思っています。やはり各家庭によって払える上限があると思うので。

これらを解決する手段として、要介護者が自ら働けるようにサポート体制を作り、要介護者自身の財布を増やすことや、予防医療などの発展で、そもそも必要な支援量を減らすこと必要だと考えられます。ですので新しいビジネスモデルを創出することが介護業界には求められており、abaとしても技術開発だけでなく、新しいビジネスモデル作りにも挑戦していきたいです。


全ての人が介護を行う、支えあいが巡る社会へ

これからの介護を支える鍵は地域コミュニティと話す宇井氏。介護サポートの仕組みが進んで来た現代において、皆で支えあう文化、風土といった時代の揺り戻しが必要になってくる。

宇井 お金を払いサポートしてもらうという今の介護の関係を維持し続けるだけでなく、今後、介護はより多様なものに変わらないといけません。一つのソリューションとして、民間からの負担をどう増やしていくのかが議論になることが多いですが、これまでもお話した通り、そこまで介護にお金は払えないと思います。私なりの策は、みんなが少しでも早い段階で介護にコミットし、間に合わなくなる前に体制を整えることにあるのではと思います。

例えば分譲マンションに認知症の方がいるとします。今であれば、認知症の人をヘルパーさんなどがサポートに入り支援しているのですが、30年後には人手が足りなくなってしまうのでそれができなくなってしまうかもしれない。その時代には介護というものを社会保障費で受ける事ができるのは、社会でごくわずかの限られた人になるかもしれません。だからこそ、マンションのゴミ捨て場掃除担当のように、認知症の初期段階のレベルならば、マンションに住むみんなで、当番制で見回りをしましょうとなるかもしれない。直接的なインセンティブがなかったとしても、もう人手がないから、隣人コミュニティでみんなでサポートし合う未来が来てしまうと思うんですよね。今の介護は自分、国どちらの財布からお金が出ているかに限らず、お金を払って支援を受けるサービスの関係になっていますが、そうではなく、時代の揺り戻しで、昔ながらの介護、つまり”お互い様”、”おかげさま”という互いの協力関係が、お金がないからこそ再びやってくると思っています。その時に、介護を全くやった事がない人が、認知症の人と、要介護者の人と、どのようにコミュニケーションを取るか、どうやってケアをできるようにするのか、ここに焦点を当てて、abaは取り組んでいきたいです。


介護業界へのテクノロジー導入は、これまで介護を行ったことのない人への介護ハードルを下げる。また、高いスキルを持つ既存の介護者がより活躍できる仕組み作りへも繋がると宇井氏は話す。テクノロジー導入による新たな介護業界とは。

宇井 私がプロダクトを開発をしていく上での最終イメージは、ドラえもんで出てくるお医者さんかばんです。ドラえもんのひみつ道具の1つで、未来のお医者さんの体験をする道具のセットなのですが、誰でも簡単に薬の調合や診断ができてしまうのです。お医者さんかばんが提供するのは医療ですが、abaのお医者さんかばんでは、誰でも手軽に介護ができるようにしたいと思っています。実は「Helppad」はお医者さんかばんの布石で、Helppadを使えばある程度のレベルでちょうどいいタイミングにおむつ交換ができると。

お医者さんかばんを比喩に出すもう一つの理由があり、お医者さんカバンは、お医者さんカバンを失った時に、その人は医療が提供できなくなるんですよね。私はこれでいいと思っています。道具を使いながら、教育されて独り立ちすることを目的にしているわけではなく、誰でもそのシステムを使っている時だけは、ある程度のレベルで介護ができるようになる。もしここで介護の面白さを感じた人は、自主的に勉強していくと思いますし、そうじゃない人でも一時的な道具セットで身近な人を支えることができます。

こうして多くの人が介護に参加できる下地が整えば、よりスキルの高い介護者の方は、専門性が必要なケアに注力し、さらにその力を生かせるようになります。彼らの凄さは、例えば誰も笑顔にできなかった認知症の方を、笑顔にする事ができることです。このような習得しづらいコミュニケーションスキルなどは、専門的な経験や知見を持った人が担っていくのが理想的です。

現時点では介護者の人数を確保することに精一杯になっていますが、誰がどのケアをすべきか、レベルに応じた階級を作ることで専門スキルを持つ人に還元できるようなります。今後、より多くの人を巻き込んだ介護社会を創出する為にも、介護を行う人が専門性を発揮出来る環境を作り、介護者を目指したり、続ける人を増やしていければと思います。

 

abaが目指す介護の未来。それは全ての人が介護を行える社会作りだ。

先月開催された国内最大規模のカンファレンスである「ICC(Industry Co-Creation) サミット FUKUOKA 2020」のリアルテックカタパルトにて、abaはグランプリを受賞した。宇井氏はこの受賞による周囲の反応を受け、起業した10年前と比較し、自分たちが思っている以上に介護に対して当事者意識を持つ人が増えてきたと話す。これまで自分に関係ないと思っていた人でも、介護を必要とする人が周りにいたり、社会的な課題として認知されてきたことから介護について考える機会が生まれてきていると。また宇井氏は、介護という誰かを支えたいと言う想いは全ての人に本質的に備わっているものだと話す。

これまでは介護への参加が難しかったことから、その想いを引き出せずにいた。しかし今後その障壁は、テクノロジーの力によって多くの人が参加できるようになる。そして介護を行う母集団が増えるほど、介護のスペシャリストがより活躍できる仕組みが形成され、介護業界へと還元される。

介護への関心は、abaのプロダクトによって引き出され実装へと結びつけられる。

『支えあいが巡る社会をつくる』、その未来を作るべくabaが存在する。



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